スポーツ栄養士の価値を考える 〜 パフォーマンスの土台は身体をつくる食から 〜

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2019年10月17日に開催されましたスポーツコーチング・イニシアチブ様との合同プロジェクト

TEAM 〜チームを成功に導くフォーメーション〜

このProject Based Learningは、プロフェッショナルがお互いに何を考えていて、何を目指しているのかを理解し、相互理解を深めていけるとより良いチームを作ることができるのでは?という想いから始まったプログラムです。

今回は、チームの中で栄養の領域について取り扱う”栄養士”がテーマ。

私たちが毎日行う食事。一日3回とするのなら、一年間で1000回食事をすることになります。食事は選択の連続です。ここの選択が少しでも変わるだけで、何かが変わる気がしませんか?

数々のトップアスリートを栄養の面からサポートしている柴崎真木さんと佐藤彩香さん2人の管理栄養士をお招きしてディスカッションを行いました。スポーツ栄養や栄養士をチームに取り入れる事のメリットからスポーツ栄養士の価値や働き方など、話は多岐にわたり大いに盛り上がりました。

パフォーマンスに影響する食

スポーツに食事は重要というのは感じている方も多いと思いますが、筋力・パワーを伸ばすための悩みから栄養に関心をもつアスリートは多いですが、ベースが整っていないとパフォーマンスは高まりませんし、継続しにくい。

柴崎真木

スポーツは重要性が高いのは認識しているが・・・。というのが現状です。

なぜならば、食が志向に左右されて栄養バランスが整わなかったり、金銭的な問題もあったりするのではないかと考えています。
競技に栄養が直結することを伝えるためには、共通の言語を通して理解してもらう必要があり、自分の関わる場合は、競技の特性や個性、競技の動作に栄養がどのように影響するのかを説明しています。

佐藤彩香

栄養の重要性を理解してもらうには長い道のりです。

元々水泳をやっていたこともあって、水泳ではスムーズに共通言語がわかるのですが、他種目だと理解するのに時間がかかります。
選手との共通言語を認識して競技特性に結び付けて重要性を理解してもらうことは重要なのではないでしょうか。

栄養や休養にフォーカスをあてているチームは少ない?

柴崎真木

下の土台が大きくなるほど上も大きくなります。
トップアスリートにおいて、体は資本となるが、栄養が体を作ること。トップで上り詰めるほど、土台の栄養部分にテコ入れをし始めるケースは多いのではないでしょうか。

トップアスリートがやりつくした中でやることとして栄養になる場合もある。一周回って栄養に行きつくという言葉を実際のケースから言われたことがあります。
周りを探索した結果栄養にいきつく選手も多いのではないかと想います。

スポーツ栄養を取り入れる事のメリット

①選手として

佐藤彩香

スポーツ栄養のメリットを選手・指導者・チームに対して考えた時に

安定したコンディショニング
自分の身体に対する新たな発見

が挙げられます。
トレーニングは1日1回かもしれないが、食事は3回あるので新たな自分の発見への機会が多く、食べる事に対する興味関心が持てます。

柴崎真木

食に対する情報提供の方法を考えないといけません。

魚を食べるのがめんどうな人に魚を食べようといっても難しい

実際のスポーツの動作をヒアリングして食事と結び付ける事によって気づきを促すこともできます。
ただジュニアの場合には難しい場合が多いので段階を踏む必要もあるのではないでしょうか。

パフォーマンスとの相関をみるのは現場の視点からみても面白い
事例はありますか??

柴崎真木

海外遠征に言った場合は、自分が食事を作って提供することも多い。
自由に食事をとってもらうと、ハンバーガーなどを食べることもあるが、普段から良い食事をとっていることを認識するようになります。
トップアスリートの場合には、体に対する感覚が敏感な事が多いが、小学生や中学生などの頃からスポーツ指導者に振り返る機会を与えてもらっている機会が多いのではないでしょうか。

言葉としてどのような言葉がけができるのか?

柴崎真木

答えを与えないです。

問うようにして選手に考えてもらうことが多いですね。

佐藤彩香

信頼関係が構築できていないときは、ふつう・まあまあ と答えられる場合が多いです。

普通ってなに?まあまあって何?と突き詰めると調子の要因を選手自身が見出します。

食事は幼少の頃からの体験が反映されやすいが、子供が好き嫌いをせずに食べられるようにするためのアドバイスはあります?

佐藤彩香

家庭でとなると難しいが、チームの中で栄養士として選手に伝えることで重要性を理解してもらえる場合が多いです。
親としてではなく、スポーツ栄養士として選手に伝えるとうまくいきやすいですね。
共通の学びを家庭に持って帰ってもらうとうまくいくのではないでしょうか。

②指導者・チームとして

佐藤彩香

栄養を任せる事によってトレーニング指導などにスポーツ指導に集中できるというのはあります。

コンディショニングや疲労回復が数値で分かるようにInbody(体組成)を用いて食事の改善を実施した例です

相手のニーズ(体重を落としたい・筋肉量を増やしたい)をヒアリング

体組成測定

食事のアドバイス

体組成測定

という流れで行いました。

柴崎真木

細かい体組成をみるためには、専門の機器が必要です。
体重階級制スポーツで取り入れたケースでは、練習の前と後を実施したことがありますが、その時にかなり抵抗をもたれたことがあります。
階級のあるスポーツでは、体重が増える事に対する罪悪感から他者による体重測定が嫌がられる傾向があります。
体重測定は結果の評価ではなく、プロセスの評価として行うという目的を明確化したうえでメリットを見せないと選手のモチベーションを保つためにも重要だと思っています。

今の現場に求められるスポーツ栄養とは?

柴崎真木

俯瞰力は専門家の信条として重要で、チームにおけるプライオリティーを客観視する力は重要なんじゃないでしょうか。
ひとりよがりにならず、情報を受信して取捨選択するためには、コミュニケーション能力が重要。
選手や指導者に選択肢を与えて選んでもらうことが重要だと感じています。押し付けてしまうのは相手へのリスペクトを欠いてしまう。
栄養的に間違っていることをやっていたとしても、意図を持ってやっていることも多いので、気付けるように導くリスペクトの姿勢が重要だと思っています。

佐藤彩香

現場力はきっちり鍛えてもらったからこそのスポーツ現場はあると思います。
特にスポーツ現場は学ばせてもらう気持ちでは任せてもらえないです。求められているのは結果なので。
私自身も現場力は忘れないようにしたい。

柴崎真木

「Think Civility」は、自分も含めて礼儀を再認識させてもらえる書籍です。

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教えてスポーツ栄養士!(質疑応答)

スポーツ業界で活躍する栄養士のインサイド・ヘッドを知るのにまたとない機会
質疑応答の時間では現役アスリートから栄養士を目指している学生、柔道整復師の方まで質問が絶えなかったです。

現在大学生で一人暮らしで競技をしています。
食費を抑えるために自炊をするようにしているのですが、体の線が細く、スキーの競技特性としてパワーがもっと必要だと思うのですが、食事を摂ることと費用をとるという観点からみると効率よく栄養を摂れる食材や献立はありますか?

柴崎真木

体重を増やすのであれば、食事量と運動量のバランスが合っていないと思うので、チェックしてみると良いと思います。
また、魚は高価かもしれませんが、鯖缶やツナ缶などは100円均一のショップにもあるのでめんどうな時もよいと思います。

女子の長距離では痩せていて体脂肪率が一桁の場合があります。
単に長距離の女子学生が安易にあの体系を目指さないのか心配になるのですが、いかがでしょうか?

佐藤彩香

実際に関わった実業団の選手は全然食べなかったです。
故障が多いというチームの課題があり関わることになった事例では、食べる=太るの概念を変えました。
食べて測定してもらうことで、食べても増えないことの安心感をもってもらえました。
現場で経験したことと学術的なことを紐づけて発信できるようになることが自分の課題だと思っています。

柴崎真木

世界の長距離で勝つためには一桁ではなければならないのは事実ですが、誰もが目指す必要があるわけではないです。
だからこそ、現場の人たちが正しい知識を持って発信することが必要なんじゃないかなと思っています。

子供の遠征のときに朝が早く、捕食を摂ります。子供が毎回バナナやおにぎりなどに飽きてしまっているので、おすすめの捕食があれば教えて欲しい。

柴崎真木

おにぎりの具を変える、握り方を変える、酢飯にするなど変化球があればいいかなと思います。
ただ、おにぎりやバナナじゃなきゃいけない理由はあまりないですが、捕食をする理由を子供に伝えてあげたうえで、おにぎりやバナナを摂ってもらうのも良いのではないでしょうか。
そうするとバナナやおにぎりなどへの見方が変わるかな。

お二人の一日のスケジュールはどのようになっておりますでしょうか?
栄養士を目指している人もいるので、仕事の一日の流れを知りたいです。

柴崎真木

食事を作るとなれば、朝練があると朝4時からということもあるし、深夜になるときもある。合宿に帯同する場合などは、そういったケースも多くあるので、体力をつけることは重要なんじゃないかなと思います。

佐藤彩香

スポーツ栄養士は、アスリートの近くでキラキラしているように見えるかもしれませんが、かなり忍耐力が必要なほど泥臭いです。
ただ本当にやりがいを感じる事もできるので、体力はつけておいたほうが良いと思います。

やりがいは人それぞれ違いますが、どんなところで感じられますか?

佐藤彩香

私は水泳を高校時代までやっていて、トップになれなかったから栄養面から選手をサポートしたいという気持ちが強くなりました。
そこは誰にも負けないし、選手にその景色を見せてもらえることは何よりのやりがいですね。

柴崎真木

達成感という点では同じかな。
自分も同じように、100分の1秒1000文の1秒をつきつめるストイックな姿勢を見ていると、自分が一生懸命努力できることって世の中にそんなにないんじゃないかなと思います。
それをそばで見る事ができるっていうのは、しびれる感覚ですごくやりがいになります。

プロアスリートの施設で食事の提供をしているのですが、朝昼兼用で食堂に食べにくるケースが多い。
朝ごはんを食べるメリットを理由として提示することと、コンビニで手軽にそろえる事が出来るリストを作ることなどは、今後のアクションプランとして思ったのですが、どのように考えますか?

柴崎真木

「言っていることとやっていることが矛盾しているかもしれないけど、それでベストなの?」
と聞きます。プロ選手なら尚更ですね。

管理栄養士の資格のために勉強をしているのですが、現場に関わることがないです。
学生のうちにやっておいたほうがいいことや、やるべきことなど教えていただければと思います。

佐藤彩香

管理栄養士になる学校にいって、即戦力にならないとスポーツ栄養士にはなれないから、すぐに現場で使えるようになる気がないならやめろと言われました。なので、100件学校やチームをリストアップしてとにかくコンタクトを取りまくりました。
結果的に現場をつかめたので、本気で現場を探せば見つかりますよ。

現在大学生で、スポーツチームへの食事提供をしています。
盛り付けて選手に渡すときに、選手が好き嫌いをして食材を抜いた場合などはどうしていますか?

柴崎真木

食材の重要性を伝えたうえで抜くようにします。結構さらっと 笑

佐藤彩香

選手よりは食事の知識があるので、堂々とした姿勢をとるようにしていくと、選手と対等に話せるようになりました。
選手との関係性作りが重要なんじゃないでしょうか。

柔道整復師として聞かれるのが減量や増量の話です。
まだ自分の中でメソッドが確立していないのですが、食事面からのポイントについてお聞きしたいです。

柴崎真木

高校生なのでトップ選手のやり方が当てはまるわけではないですが、体脂肪率は体重の5%以内にとどめるというのは基本です。
ただし、高校生で体の発達も関わるのでそのやり方が当てはまるかどうかはわかりません。
そういう時に栄養士さんに相談したほうが良いと思いますよ。

大学でアルペンスキーをしているのですが、大会直前のごはんで避けた方が良いorおすすめはありますか?

柴崎真木

自分で探しましょう 笑
ただ、それは冷たいと思いますので。。。
糖質を十分に摂っておくことや脂質が高いもの、繊維が多いものは避けることは言えます。
ただ選手によってそれは様々なので、自分を把握する必要があります。
アルペンスキーの場合は、試合直前というよりは普段から栄養を十分にとることのほうが重要だと思います。

栄養の情報ソースで信用できる場所があれば教えてほしいです

柴崎真木

栄養士の学校で使っているテキストが、大きな書店で買うことができます。
その中でもAT向けのテキストなどもあると思うので、一般知識は得られると思います。

佐藤彩香

本になっていて、引用文献があったりしたほうが良いと思います。
基本的な知識を身につけて、トライしてみる、その後振り返りをしっかり行って自分なりのカスタマイズへの道だと思います。

樋口先生の本は良いと思います。(栄養士向けという感じではないので)
栄養士向けのテキストだと専門用語がたくさんあってわかりづらいと思うので・・・

補足

難しく感じる場合は競技別の簡易的に説明してある書籍からはじめてみるのも良い
(難しいかどうかは人それぞれなので、本屋で立ち読みしてみましょう)

登壇者プロフィール

柴崎 真木

管理栄養士 健康運動指導士 健康科学修士 経営学修士(MBA)
文部科学省委託事業スタッフとしてロンドン五輪男子柔道、競泳日本代表チームの栄養サポートを担当
現在はフリーランスとしてアスリートの栄養サポートを中心に、執筆、レシピ作成、セミナー講師などでご活躍されている。

佐藤 彩香

管理栄養士 スポーツ専門栄養士 予防医学士
Sports Connecters発起人
企業、保育園などでの栄養カウンセリング、献立作成、栄養計算、店舗運営を経験 その後独立
実践型の栄養サポートを行い、プロアスリート〜キッズ、ダイエット志望の方など累計5000人を超える方と関わる。
現在はパーソナル栄養サポート、セミナー講師、ライター活動、レシピ開発なども行いながら「あなたのかかりつけ栄養士」として活動をしている。

パフォーマンスやコンディショニングに食は欠かせない!

筋力も、スピードも、メンタルも、スキルも、全ては身体があるからこそ。
その身体を作るのは食です!
参加された方は改めて食と栄養士の重要性の高さを知ることのできた時間になったことでしょう。
この記事だけでも十分な価値なので、是非現場に活かしてみてください!

このTEAM 〜 チームを成功に導くフォーメーション 〜はフィジカル、コーチ、栄養、メンタルの4つのプロフェッショナルが集まって良いチームを作るためのシステムや考え方を構築していくプロジェクトです。
次回は“メンタル”について!
自身のサポートする選手やチームのためにどんなことができるのかを考える最高の機会になりますので、奮ってご参加ください!(詳細は後日Facebookページからお知らせ致しますのでフォローしてください)

最後までお読みいただきありがとうございました。

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